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東京高等裁判所 平成元年(行コ)46号 判決 1989年9月12日

控訴人(原告) 大崎鋭侍

被控訴人(被告) 鎌倉市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を横浜地方裁判所に移送する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  本件の被告(被控訴人)を「鎌倉市長 中西功」に変更することの許可を求める。

2  原審においては、本人訴訟で手続が進められたものであるところ、控訴人は、地方税法五条二項により課税主体が鎌倉市とされているところから、鎌倉市を被告として本訴を提起したものであつて、これは、単純な誤解に基づくものである。すなわち、控訴人には、右誤解について故意や重大な過失はないというべきである。

よつて、控訴人は、行政事件訴訟法一五条一項に基づき、被告(被控訴人)を変更することの許可を申し立てる。

二  被控訴人

1  行政事件訴訟法一五条所定の被告変更は、原告に故意又は重過失がない場合に限り許されるものである。

ところで、控訴人は、経営事務所・会計事務所を経営する者であり、税理士であるばかりか法学修士の資格をも有しており、税法及び法律全般に関する専門家である。

そもそも、税理士は、税務官公署に対する行政不服審査法等に基づく不服申立手続の代理をもその業務内容の一つとしており(税理士法二条一項二号)、行政争訟手続について十分な知識を有しているはずのものである。まして、固定資産税の賦課処分が地方公共団体の長によりなされるものであることは地方税に関する基礎的事項であつて、税理士(しかも、法学修士の資格を持つ税理士)たる控訴人にとつては自明の事柄に属するものである。

したがつて、控訴人が被告を誤つたことについては故意・重過失があり、被告変更を許すべきものではない。

2  なお、控訴人は、裁判所が釈明権を行使して当事者の訴訟の遂行に過誤のないようにすべきもの、と主張している。

しかしながら、原審裁判所は、再三にわたり控訴人に対して被告変更を勧めており、控訴人においてこれを拒否して結審に至つたものである。原審裁判所の審理手続にあたかも不十分な点があつたとするかのごとき控訴人の主張は、真実に反するものであつて、失当である。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件訴えはこれを不適法として却下すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

控訴人は、当審において、被告(被控訴人)を鎌倉市長に変更することの許可を申し立てたので、検討する。

行政事件訴訟法一五条所定の被告変更は、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤つた場合に許される(同条一項)。

ところで、本件記録によれば、控訴人は、税理士の資格を有し、経営事務所・会計事務所を経営するものであるが、法学修士の資格をも有しており、税法及び法律全般に関する専門家と認められる。税理士は、税務官公署に対する行政不服審査法等に基づく不服申立手続の代理をもその業務内容としており(税理士法二条一項一号)、税務に関する行政争訟手続について十分な知識を有しているはずのものであり、固定資産税の賦課処分の主体についても十分な認識を有しているべきものと考えられる。

しかも、原審記録によると、控訴人は、原審裁判所から第一回及び第二回の各口頭弁論期日において被告の変更を促されたとうかがわれるところ、鎌倉市が被告となるべき旨を論じて、いずれの期日においても被告を変更する意思がない旨を陳述したことが明らかである。

以上の事実にかんがみると、原審において、控訴人は訴訟代理人を選任せず、自ら訴訟を追行したものではあるが、この点を考慮しても、控訴人には、被告を誤つたことにつき重大な過失があつたものといわざるをえない。

よつて、控訴人の本件被告変更の申立ては、許可しないこととする。

二  以上の次第で、控訴人の本件訴えはこれを不適法として却下すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 猪瀬愼一郎 岩井俊 小林正明)

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